zoi's blog

良い戦略 悪い戦略

August 20, 2020

目次

良い戦略とは

良い戦略とは必ずといっていいほど、単純かつ明快である。

必要なのは目の前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素、すなわち、こちらの打つ手の効果が一気に高まるようなポイントをみきわめそこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる。

戦略策定の肝は、常に同じである。直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒト、モノ、カネそして行動を集中させる方法を考えることである。状況が困難であるほど、行動の調和と集中を図り、問題解決や競争優位へと導くのが良い戦略である。

戦略とは、なにか野心を抱いた時、あるいは何か新しい変化に直面したときに、リーダーシップや決意をいつどこでどのように発揮すべきか、その道筋を定めることである。

戦略とは、そうした重大な課題に取り組むための分析や構想や行動指針の集合体と考えれば良い。

良い戦略には、とるべき行動の指針が既に含まれている。細かい実行手順が示されているわけではないが、やるべきことが明確になっている。「今何をすべきか」がはっきりと実現可能な形で示されていない戦略は欠陥品と言わざるをえない。

戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするなら、最も効果の上がりそうなところに最強の武器を投じることである。

良い戦略に自ずと備わっている卓越した価値の第一は、新たな強みを生み出すことである。

良い戦略に必要なのは、さまざまな要求にノーと言えるリーダーである。戦略を立てるときには、「何をするか」と同じくらい「なにをしないか」が重要なのである。

強みを発見する「ウォールマート」

ウォールマートがなぜ急成長をとげることができたのか?

小売業界の常識

→ フルラインナップのスーパーマーケットを出店する条件として、最低100万人以上の人口が必要である

Q: ウォールマートはどんなことをして他社と差をつけたのか?

  • 常識を打ち破った
  • 小さな街に大型店舗を出店
  • デブリデイ・ロープライスという新機軸
  • 倉庫管理と商品追跡システムを電子化して効率的な在庫管理
  • 組合がなく徹底した経費削減

Q: これらがウォールマート躍進の原因だとして、これらのことは1986年の時点でわかっていた。なぜその後10年間もライバルのKマートを圧倒することができたのか?Kマートはこれがわかっていたのになぜ競争にならなかったのか?

バーコードスキャナーはもっぱら食品スーパーで使われていたが、大半の小売企業にとっては、値札のひんぱんな付け替えをしなくて済むので便利、というだけのものだった。しかしウォールマートは、このデータを自社のロジスティクス・システムに活用するとともに、サプライヤーにも値引きと引き換えにPOSデータを提供していた。

これによりサプライヤーを巻き込んだ一体的なロジスティクス、ジャストインタイムの在庫補充、大型店と少量在庫といったことが相互補完的に作用していた。これが合わさって全体として一つの整然としたシステムを形成していた。POSデータの管理、ロジスティクス、ジャストインタイムの在庫補充、大型店舗と少量在庫、どれ一つとっても欠かすことができないモノだった。

Q: ウォールマートが打ち破った常識とは?

ウォールマートは人口の少ない街に大型店舗を出店するという、小売業界の常識と反することを行っていた。ではなぜ成功したのか?ウォールマートの重要なポイントは、「ウォールマートの店はネットワークの一部であることが必要である」ということだ。ウォールマートは1店舗ではなく、150店舗の地域ネットワークを繋げることで全体として一つの店舗として運用することを可能とした。

常識を破ったのではなく、店舗の定義を覆したのだった。

悪い戦略の特徴

悪い戦略では、目標が多すぎる一方で、行動に結びつく方針が少なすぎるか、まったくないのである。

本物の専門知識や知見の特徴は、複雑なことをわかりやすく説明できることにある。これに対して悪い戦略の特徴は、わかり切ったことを必要以上に見せかける。中身のないことを厚化粧で覆い隠しているのである。

がんばることは人生において大事ではあるが、「最後のひとふんばり」をひたすら要求するだけのリーダーは能力がない。リーダーの仕事は、効果的にがんばれるような状況を作り出すことであり、努力する価値のある戦略を立てることである。リーダーになるということは、「誰かが自分の目標をきめてくれる」ポジションから「組織の目標を自分で決める」ポジションに移ることを意味している。

業績不振であれ成績不振であれ、望ましくないこと自体を取り組み課題に掲げるのは悪い戦略だということを覚えておいて欲しい。業績不振は結果に過ぎない。取り組むべきは、なぜ業績が悪いのか、その原因の方である。なぜうまくいかなかったのか、なぜ改善が難しいのか、その原因を見つけようとしないが限り、良い戦略をたてることができない。

悪い戦略がはびこるのはなぜか

悪い戦略は、良い戦略を練り上げるためのハードワークを自ら避けた結果なのである。

なぜ避けるのかと言えば、考えるのは大変だし、選ぶのはむずかしいからだ。しかし相反する要求や両立しえない価値観の中から選択をすることこそリーダーの仕事であり、それを放棄するとなれば、悪い戦略しか生まれない。選ぶという困難な作業を避け、どの意見も捨てず、誰の体面も傷つけないようにしていたら、良い戦略は生まれない。

良い戦略の基本構造

根本的な問題は、状況を完全に把握することである。

良い戦略には以下3つの特徴があり、これをカーネルと呼ぶ。

  1. 診断:状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に皮身あった状況を明快に解きほぐす。
  2. 基本方針:診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。
  3. 行動:ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

企業の場合、取り組むべき課題は変化や競争への対応であることが多い。企業にとって大切なのは、やみくもに業績目標を掲げるのではなく、状況を判断して課題の本質をみきわめることである。この診断がついたら、どうすれば最も効率的かつ効果的に対処できるか、方針を決める。そして一連の行動とリソース配分をデザインし、方針を実行に移す。

気を付けるべきは、ここでいう基本方針を戦略と称している企業がかなり多く見受けられる。だが、戦略を基本方針で代用するのは間違っている。診断を伴わない場合、どのような方針が可能か、比較検討して選ぶことができない。また基本方針に沿って行動を起こしてみないと、その方針が現実に実行可能かどうかを確認することができないだろう。

良い戦略とは「なにをやるか」を示すだけでなく、「なぜやるのか」「どうやるのか」を示すものであるべきだ。

また、良い基本方針をもつこと自体も一つの優位になる。良い基本方針は、こちらの行動がどのような反応を招くかまで予想した上で、行動の方向を示す。また、決定的な一点に努力を集中することによって、大きな効果をあげる。さらに、手当たり次第にいろいろなことを試すのではなく、一貫した行動を呼び起こす。こうした意味で、良い基本方針はそれ自体が強みとなる。

良い診断と基本方針の例

何が頭痛の種なのか、診断するようにアドバイスすると、ステファニーは、地元にできたスーパーマーケットとの競合が問題だと答えた。そのスーパーは年中無休のうえ、値段も安い。そういう強敵から客を奪うにはどうすれば良いのか。ステファニーによれば、店の客の大半は、近くに住んでいるか働いている人たちで、歩いてやってくるという。毎日のようにくる常連客もおり、その多くは地元の大学の学生課、地元企業で働くサラリーマンに二分される。学生は値段重視、会社員は時間重視で、短時間で買い物を済ませられる点がスーパーよりも好まれている。こうして状況を整理した結果、様々な疑問に頭を悩ませていたステファニーの前に明確な選択肢が姿を表した。もちろん、両方の客層のニーズに応える一石二鳥の戦略があるなら、二者択一をする必要はない。だがステファニーの場合、両者の違いは大きく、二兎を追うのは無理があった。客の数としては大学生の方が多いが、より多くお金を落としてくれるのはサラリーマンのほうである。考え抜いた末に、ステファニーは「忙しく働く人たちのニーズに応える」ことを基本方針に選び、さらに具体的に「忙しくて料理をする時間のない人」をターゲットに絞り込んだ。

この基本方針が唯一絶対なのか、あるいはベストなのかを確かめる方法はない。だがとにもかくにも基本方針がなかったら、どうこうどうするのかが決まらない。重要なのは、基本方針を定めることによって、無数にあった手段の中から方針に沿った行動を選び一貫性を持って取り組めるようになることである。

行動へと足を踏み出す

戦略の極意は、ほんとうに重要な問題をみきわめ、そこにリソースや行動を集中することにある。これは、非常に難しい。何かに集中すれば、それ以外をすてることになるからだ。

一貫した行動を組織する

格闘をするときの簡単で効果的な戦略は、左へ動くと見せかけて右からパンチを繰り出すことである。この場合、攻撃者の動きは時間的、空間的に巧みにコーディネートされ、一貫した流れを形作っている。企業経営における簡単で効率的な戦略は、営業やマーケティングで得た情報や知識を製品の設計や事業の拡張・縮小の判断に活用することである。

戦略とは、ある具体的な課題に取り組む行動を連携・集中させるモノではなければならない。各事業部の責任者の「やることリスト」を寄せ集めただけでは、戦略とは言えない。

優れた組織は使い分けをわきまえており、何をやるにも全部門の行動を統率する、といった愚は犯さない。これでは現場に活気がなくなってしまう。通常の活動はそれぞれの部署に委ね、ここぞという時に行動を一点集中するのが賢い戦略であり、賢い組織である。

テコ入れ効果

良い戦略は、知力やエネルギーや行動の集中によって威力を発揮する。ここぞという瞬間にここぞという対象に向かう集中が、幾何級数的に大きな効果をもたらすのである。これをレバレッジと呼ぶ。

テコ入れ効果を得るには、的確な予想を行うことが重要になってくる。

鎖構造

最も弱い箇所によって全体の性能が決まってしまうようなシステムは、鎖のような構造を持つと言える。企業や経済は、少なくとも部分的には鎖のようにつながった構造になっている。このような構造で、一つ一つの単位が個別に運営されていると、システム全体は十分な機能を発揮できず「質的不整合」の問題が発生する。

鎖構造になった問題で難しいのは、ボトルネックを特定することである。

問題が鎖のように繋がっている場合、全部を解決するまではほとんど効果は現れない。この場合、一回に一つの問題に集中し、他の問題をシャットアウトすることで、問題を解決するしかない。

逆に、強力なリーダーシップで良い鎖構造を作り上げることができれば、それは容易にまねすることができなくなる。どれか一つをまねするだけでは効果が得られないのである。

優位性

現実の競争では双方が完全に同意ということはあり得ず、数多くの非対称が存在する。そこで、どの非対称が決定的に重要かを探り出し、それを自らの優位に変えることがリーダーの仕事になる。

競争優位を拡大するためには、既存の製品、顧客、競争相手から視点を写、自社の競争優位を支えている独自のスキルやリソースを他に生かせる道はないか、探すことが必要になる。つまり競争優位の拡大は、自社の強みに基づいた戦略と言えよう。

このタイプの戦略では、自社のリソースを他の製品や他の市場でも活用するのが最も基本的である。しかし、自社の競争優位を「ロジスティクス」であるとか「ブランド」であるといったように抽象的に漠然と捉えていると、全く馴染みのない製品やプロセスに手を出しかねないことは覚えておこう。

ダイナミクス

変化の原動力をみきわめる

何か本質的な変化が始まっているかどうかを見極めるためには、重要な細部に目を凝らす必要がある。変化のうねりが形成されているのではないかーそんな勘が働いたら、専門家に質問して恥ずかしくない程度まで知識をかき集め、真摯つに教えを乞うことだ。いったん変化が始まってしまえば、誰も彼もが訳知りぶって論評する。だが重要なのは、表面的な現象にとらわれず、その下で働いている原動力を見極めることだ。

収束状態

変化のダイナミクスについて考える時には、収束状態を見通すと良い。新しい技術屋構造変化に直面した産業がどのように動いていくべきかを考え、どこに落ち着くかを予想する。「べき」という言葉を使ったのは、変化は効率化の方向へ向かうべきだからである。しなわち書いてのニーズと需要に可能な限り効率的に応じられる方向へと変化は進む。産業の収束状態を明確に描き出せるなら、変化の波にのることもよりたやすくなるだろう。

1995~2000年の通信業界で、シスコは「あらゆるネットワークにIPを」というビジョンを掲げていたが、まさにそれが業界の収束状態であり、そこに向かって全てが動き出していた。

慣性とエントロピー

組織の慣性は大きく3種類に分類できる。業務の慣性、文化の慣性、委任による慣性である。自社の慣性を減らそうとする場合にも、相手の慣性に付け込もうとする場合にも、それぞれの実態をよく知っておく必要がある。

ストラテジストの思考法

戦略を練り上げる時は他人の視点に立つことが重要だ、目の前の状況がライバルの目あるいは顧客の目にどう映っているか考えてみるといい

人間は自分の思考を意思の力で完全にコントロールすることはできない。

戦略と科学的仮説

最も価値のある知識は、企業にとって独自の知識、自ら発見あるいは開発した知識である。

良い戦略は、他社には入手できないような独自の知識を存分に活かす機会を提示する。良い戦略とは、こうすればうまくいくはずだ、という仮説に他ならず、理論的裏付けはないが、知識と知恵に裏付けされた判断に基づいている。

スターバックスの最初の仮説は「イタリアのエスプレッソ体験はあめるかでも再現でき、きっと人気になるだろう」だった。

戦略思考のテクニック

ある出来事が起きるかどうかの確立に関する判断、自分自身の能力と競争相手の能力との比較、因果関係の立証などは直感に頼るべきでない。

目先のことや最初の思いつきに迷わされずに自分の考えを導いていくためには、三つの習慣をつけると良いだろう。

  1. 近視眼的な見方を断ち切り、広い視野を持つための手段を持つこと。たとえばリストは良い方法である。
  2. 自分の判断に疑義を提出する習慣をつけること。自分からの攻撃にすら耐えれないような論拠は、現実の競争に直面したらあっさりと崩壊してしまうだろう。
  3. 重要な判断を降したら記録に残す習慣をつけること。事後評価として反省材料として活用できる。

困難な状況に直面した時、三つの要素がそろった戦略をすぐに考えられる人はめったにいない。おそらく最初の思い浮かぶのは、どれか一つの要素だろう。

カーネル自体が首尾一貫した一つのロジックであって、真実から診断を、診断から基本方針を、基本方針から行動を導き出す。カーネルに立ち帰れば、最初は一つの要素しか考えられなくても、そこから三つの要素へと思考が広がっていくだろう。

何が問題なのか、何が障害物になっているのかを把握していれば、どんな戦略が可能なのかがより明確になる。


Kyle Mathews

SMB向けのマーケットプレイス事業を売却後、エンプラ向けのSaaSをやってます。元エンジニア:Ruby / Go / Nuxt / ReactNative