zoi's blog
Master Of Scale
June 06, 2020
計画がないと「この局面ではできることが何もない」ということになりがちだが、計画があれば、連続した手によって、何を成し遂げられるのかを考えるようになる。このレベルに至って、プレイヤーは飛躍的に上達するんだ。
チェスで好きなのは、数手先を読む戦略的なセンスが磨かれることだ。一手ごとに考えるのではなくてね。思うに、今日の社会では、物事の数手先を読めない人のほうが圧倒的に多いのではないかな。次にどう動くのがベストかを、そのつど考えている感じだ。つまり、何事も進みながら考えているのだね。一方で、先々まで見通したうえで、同時多発的に行動を起こしたほうがうまく行くケースも多々ある。あるタイプの企業には、こうしたマルチ行動が欠かせない。注目されることは少ないが、ジョブズがアップルで成し遂げた真の偉業は、この手の複雑な判断だったと僕は思う。スマートフォン、すなわちiPhoneを作るには世界中からこまごまとした部品を集めてこなくてはならない。ジョブズはそのサプライチェーンの大部分を管理し、この巨大な市場で圧倒的なリードを果たすことに成功した。
イーベイで勝負するのは、なんとも居心地の悪い状況ではあった。とはいえ、イーベイは行動を起こすのが遅かったし、銀行と協働することにも失敗していた。そこには、なんらかの構造的な理由があると思う。彼らは利益率がとても低かったし、だから詐欺への対応でもリスクを取ることができなかった。
イーベイは自分たちのプラットフォームの強みを使い倒すことに奥手だったんだろうね。そこが、マイクロソフトみたいにアグレッシブな会社とは違うところだ。その理由の一端は、イーベイの強みがコミュニティにあるということを本人たちもわかっていて、コミュニティが求めるところを尊重しようとしていたからだと思う。競争に話を戻すと、僕が言いたかったのは、きみの理論は必ずしも「誰とも競争をするな」ということではなく、「悪い相手と競争をするな」ということなんじゃないかと思ったんだ。つまり、競争するなら、自分と可能な限り異なっている相手と競争すべきだ。競争相手が誰もいなければ、それは素晴らしいことだ。それこそ「最大限に異なっている」ということになるからね。
競争相手がまったく存在しなければ、つまり誰も事を起こしていなければ、そこにマーケットはないし、ビジネスをするのに最高の場所だとも思えない。だから、何かは必要なんだ……「自分とは異なるライバル」的なものが。本当に価値のあるビジネスをするためには、どこかの地点で競争から抜け出そうとしなければならない。しばらくは激しい競争に巻き込まれることもあるだろうけど、そのうち競争があまりない場所に向かうべきだ。
スケールについて言えば、スケールする前にビジネスのあらゆる細部に通じている必要はないし、すべてを証明してみせる必要もない。経済学があとづけてくれるのを待っても遅くはない。だから、「ビジネスモデルはありますが、細かい部分はあとで考えます」でいい。ペイパルもそうしたし、フェイスブックもそうした。
それでも、正しいことをしたと思っているよ。可能な限り迅速にスケールできなければ、別の誰かが僕らを出し抜いていただろうし、僕らは脱出速度を達成できなかっただろう。紹介者ボーナスを出すのをやめても、ユーザーを有機的に増やしていけるという確証はなかった。加えて僕は、スケールしながらビジネスモデルを考えることは可能だと考えていたんだ。ビジネスモデルが機能するかどうかを確認してからスケールするのではなく、スケールしてからビジネスモデルを検証すべきだとね。このふたつの選択肢を考えてみると、僕らは正しいほうを選んだと思う。本当のところ、2000年の3月から9月はバーンレートが月に1000万ドルを超えていて、生きた心地がしなかったけどね。
SMB向けのマーケットプレイス事業を売却後、エンプラ向けのSaaSをやってます。元エンジニア:Ruby / Go / Nuxt / ReactNative
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